サロン・ド・ヴェール 絵画教室

第6回  「バラを描く」

 

大空の下の秋のバラ

ついに10月が来ました。秋バラの季節です。

春のバラは若く溌剌としています。エネルギーに満ちています。これに対して、秋のバラ

は深くシックです。落ち着いた美しさがあります。

公園のバラを描きます。

切りバラではなく、地面から生えているバラです。

日本の洋画の巨匠たちが描き残したバラはほとんどが切りバラで、立派な花瓶に収まって

います。花も色とりどりで、画面の中に数多くの色のバラが詰まった感じ。

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左・梅原龍三郎「薔薇」1971年 キャンバス 油彩 42.3×35.2cm

右・長谷川利行「バラの花」1935年頃 水彩 19.5×18.0cm

*長谷川のバラは花瓶のバラですが、一輪挿しです。

 

父・菊地辰幸のバラ

これに対して、立ち木のバラを描いた画家はほとんど思いつきません。

私の父は立ち木のバラをけっこうたくさん描きました。自分の庭で育てたバラでした。父

は晩年茨城県の水海道市に住み、大きな庭のある家に暮らしていました。冬は達磨ストー

ブを焚くため、ストーブの下に灰が大量に出ます。それをバラの根元に撒くと、大きな立

派な花が咲きました。

父のバラの絵はおそらく独自の画境でしょう。

 

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左・菊地辰幸「ウージュの香り」1998年 キャンバス 油彩 40.9×31.8cm

右・菊地辰幸「バラ」1996年 油彩 40.9×31.8cm

 

モネのバラ

しかし、父以前に立ち木のバラを描いたヨーロッパの大巨匠がいます。

クロード=モネです。

モネは睡蓮の作家として有名ですが、睡蓮以降に多くのバラを描いています。それも大画

面にあふれるばかりのバラの絵です。モネは自分の庭に川の水を引き入れ日本庭園を造り

ました。太鼓橋とか柳などを配した大きな庭園です。私は行ったことはありませんが、写

真などで何度も見たし、友人の美術史家がモネの庭園の研究をした小冊子をじっくり読ま

せてもらいました。

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左・モネ「ばら」1923〜25年 キャンバス 油彩 130×200cm

右・モネ「ばらの小径」1924〜25年 キャンバス 油彩 88.5×100cm

*これらのバラの絵はモネが83歳から85歳にかけて描いた。特に左の絵は約120号

の大作。「歳は天の恵みである。若さは活きる術である」という諺があるが、この絵を

見ているとその諺の意味がわかる。

私見ですが、モネの日本庭園の最大の弱点は石を配さなかったこと。そこが「ヨーロッパ

人が造った日本庭園」なのでしょうか? 印象では井の頭公園みたいな感じだと思います。

もっともっとジャングルみたいにうっそうとしている様子も伺えますが。

そのモネのバラは以前にもご紹介しました。もう何がなんだかわからないような抽象絵画

のようなバラです。モネはこれらの大きなバラの絵を80歳から85歳にかけて描いてい

るのです。油絵の具の特性を知り尽くした真なる巨匠の、油まみれ、絵の具まみれの体当

たりの油彩画です。油絵描きはまこと、こうありたいものです。

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左・モネ「バラの小道」1920〜22年 キャンバス 油彩 92×89cm

右・モネ「バラの庭から見た家」1922〜24年 キャンバス 油彩 81×93cm

*これらの絵もモネが80歳以降に描いた。こうなると、もうバラだかなんだかわからな

い。ほとんど抽象の世界。大きさも30号ほどはある。

 

描く喜び

大空の下で、キャンバスに向かい、筆を持つ。あとは思いのままに描くだけです。こんな

幸せはありません。この喜びこそが絵描きの絵描きたる証! ここに絵描きの真髄があり

ます。

筆を持てば、アマもプロもない。受賞も入選もない。売れるも売れないもない。大草原で

首輪を放された犬と同じです。みんな大喜び。大画伯であります。

 

筆の技法

前回、油絵の技法を書きましたが、言い残したことが多かったので、これから少しずつ気

がついたことを書いてゆきます。今回は筆について。

筆の種類は大きく、平筆と丸筆に分かれます。ふつうはほとんど平筆を使います。初めは

平筆だけで十分です。毛も豚毛のほかに柔らかいテンの毛などもありますが、豚毛の平筆

で十分。

それだって太さがたくさんあり、使い分けるのはけっこう骨です。

筆は太目のものを使い、長く持つこと。大きくものを見て大きく描いてください。写真の

ように精密に描きたいでしょうが、絶対にできませんから、諦めて大きく描きましょう。

チマチマ描いても、ただ下手な絵になるだけです。それより思い切って堂々と描いてくだ

さい。

ちなみに、「太い筆を長く持って描け」という教えは、父の西洋画の師である原精一先生

が父に直伝したことです。もっとも父は晩年「細い筆も便利だなぁ」と言っていました。

 

他のテキスト

第1回絵画教室「りんごを描く」(03年7月16日)/第2回絵画教室「手を描く」(03年8月13日)

第3回絵画教室「花を描く」(03年9月3日)/第4回絵画教室「花を描く」(03年9月17日)

第5回絵画教室「油絵で描く」(03年10月1日)/第7回絵画教室「風景を描く」(03年11月5日)

第8回絵画教室「静物を描く」(03年11月19日)

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