サロン・ド・ヴェール 絵画教室
第4回 「花を描く」
花は美しい!
花は生殖器です。ここのところをしっかり認識しておく必要があります。
だから美しいのです。また、弱くはかない。
やっぱり花は永遠のテーマです。
西欧の花の絵
しかし、残念ながら、ヨーロッパ絵画に花の名作はほとんどありません。花の名手として
有名なのはヤン=ブリューゲルです。あの雪の風景のブリューゲルの息子です。他にもオ
ランダ絵画には目を瞠る花の精密描写があります。時代が下るとフランスのシャルダンの
花瓶の花が心に浮かびます。印象派ではやっぱりモネでしょうか。ヴヤールの可憐な花も
悪くない。可憐と言えば、イギリスのコンスタブルの小さな花も思い出されます。ゴッホ
のひまわりはとても有名です。
ま、しかし、やっぱりヨーロッパの花の絵にはどうももう一つ魅力が足りません。それは、
東洋の草花の絵があまりにも素晴らしいからでもあります。
花咲く風光
中国や日本の花の絵はそれほど素晴らしいのです。
まず第一に東洋の花々はほとんど地面から生える立ち木で、ヨーロッパの絵のような切花
を描いたものは見当たりません(少しあります)。明治以降日本の洋画家が花瓶の花を描
くようになりました。梅原龍三郎は特にたくさん描いているのではないでしょうか。他に
も中川一政など挙げていったら切がありません。しかし、私が第一に推すのは長谷川利行。
世界に通用する花の油彩画だと思います。その長谷川でさえ切花を描いています。
中国の牧谿、徐渭。日本の愚渓、長谷川等伯、俵屋宗達、尾形光琳など花の名手は数限り
なくいます。さらに浮世絵のなかに花の絵は生き続けます。また、唐草模様はその起源が
わからないほど古いものです。東洋には古くから草花に親しみ、絵画、彫刻はもちろん、
着物の模様などにふんだんに取り入れてきたのです。
もともと、ヨーロッパは日本や中国の揚子江一帯とは気候区分が異なります。われわれは
植物が豊かに繁る土地に住み着いているのです。
そういう認識で花を油絵で描いているのは私ぐらいしかいませんので、よろしく。
花に挑戦!
と、これでは花の絵の描き方の話になりません。
それでは以上の事情を頭において、自信を持って東洋人の花の絵に挑戦しましょう。
花も顔や手と同じで、大切なのは構造、骨格です。すなわち、茎です。まず、平らな地面
からまっすぐに茎を伸ばします。そして、枝は茎から螺旋状に生えています。枝の先の葉
に十分日の光が当たるためでしょうか? なんだか知りませんが、よくできているのです。
とにかく、以上のようなこの単純な構造をしっかりつかんでください。
それから、次に大切なのは葉っぱ。絵を見る人に花の種類を見分けさせるのは葉です。
花は淡い色でさっと描いておけばいいのです。裸婦像の乳房と同じです。
そして最後に必ず花の中心の黄色を入れておきましょう。ちょっと入れておけば十分です。
こういうのは、最後の最後の飾りつけ。忘れても支障はありません。
本日から油絵を使いますが、重大なのはデッサンです。絵画のすべてはデッサンの中にあ
ります。くれぐれも色に迷いませんように。
特に緑色を使いすぎると他の色をすべてくってしまいます。緑には要注意。ご使用は控え
めに。
図版は上・左から順次、
*クロード=モネ「ばら」1923〜25年 キャンバス 油彩 130×200cm
モネの最高傑作! なんとモネ63〜5歳。モネは80歳を過ぎても旺盛に制作する。
*コンスタブル「けしの習作」1832年頃 茶色地の紙に油彩 60.5×48.7cm
*ヴィヤール「小さい花、b器の中の4本のマーガレット」1900年頃 キャンバス 油彩 53×33cm
*長谷川利行「カーネーション」1937年 キャンバス 油彩 56.2×32.7cm
*伝・俵屋宗達「草花図襖」(8分の1ほどの左下部分)江戸初期 紙本金地着彩 元の大きさ 169.0×291.2cm
*牧谿「芙蓉図」13世紀後半 紙本墨画 34.5×36.7cm
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