サロン・ド・ヴェール 絵画教室

第3回  「顔を描く」

人物画は顔が命

「人形は顔が命」というのは有名な雛人形のコマーシャル。実は絵も顔が命なのです。

私などいまだに顔が描けません。私の描く裸婦には顔が見えないポーズが多いので、不思

議に思われる方もいらしゃいますが、顔のあるポーズは失敗が多いからです。

顔は物凄く難しいテーマです。おそらく最高に難しいでしょう。

そこで、若い画学生は石膏デッサンに取り組みます。石膏デッサンは顔を描く練習でもあ

るわけです。ここ数年、東京芸大の油絵科では石膏デッサンの試験がないとのこと。日本

の洋画界はますます先細りの傾向でしょうか? 中村彝が聞いたらさぞ嘆くことでしょう。

石膏デッサンと並行して顔の練習になるのが自画像。鏡一枚あればモデルが調達できます。

 

ギリシャの女神

今回は、石膏デッサンでは基本とされる「ギリシャ婦人」を描きます。私は石膏像を2体

持っています。両方ともギリシャの女神像で、今回の「ギリシャ婦人」も私の像です(も

う一体は「ラボルト」)。だからどことなく薄汚い。スミマセン。

ちなみに、私がこれらの石膏像を購入したのは石膏デッサンの修業のためではなく、ただ

のギリシャ彫刻が好きだから。

LAKE-YAMANAKA          LAKE-YAMANAKA

模写サンプルのプリントは原作の写真から採りました。第1回の「リンゴを描く」は白黒

コピー、第2回の「手を描く」はホームページと同レベルのカラリオプリントでしたが、

今回の「顔を描く」は300dipの高画質プリントです。「ギリシャ婦人」のほか「当麻寺

の曼荼羅」「ボッティチェリの春」「レンブラントの婦人像」の4点を選びました。

 

選んだ理由

「顔を描く」というテーマを決めたとき最初に頭に浮かんだのは「レンブラントの婦人像」

でした。この絵は面がしっかり取れていて、レンブラントのものの見方がよくわかると思っ

たからです。

次は「当麻寺の曼荼羅」。この画像は「原色日本の美術」という小学館のシリーズの「染

色・漆工・金工」の巻の冒頭にある図版です。こんな工芸の巻は見てもしょうがないかと、

暇つぶしに画集を開いたら、最初の1ページ目で目が釘付けになってしまいました。この

織物の原寸はとても大きく、この画像はほんの一部分です。

LAKE-YAMANAKA          LAKE-YAMANAKA

ルネサンスの代表にはボッティチェリを選びました。レオナルドのモナリザやラファエロ、

ミケランジェロなどルネサンス美術は模写サンプルの宝庫ですが、今回は盛期ルネサンス

に入る少し前のちょっとプリミティブなボッティチェリの魅力を味わいましょう。

ボッティチェリの春も物凄く大きな絵です。この画像もほんの一部分。しかし、この部分

だけでもこの絵に注ぐ作者の意気込みが伝わってきます。他の部分もたいへん魅力的です。

 

思い込みを捨てる

顔はもちろん頭の一部で、頭はボールのようなものです。頭蓋骨を見るとボールというよ

り半球の頭部に二つの蝶番で顎がぶら下がっている形状をしています。この形状をしっか

りマスターして描かないと、大きな失敗に陥ります。

顔はとにかく誰でもみんなよく見るものです。人間の顔の形を知らない人はいません。こ

れは絵描きにとってはもっとも恐ろしいことでもあるのです。絵の欠陥が人目でばれてし

まうからです。

顔を描くとき一番陥りやすい落とし穴は思い込みです。つまり、ボールの表面に両目があ

り、鼻があり、口がある。確かにその通りなのですが、目は眼窩という大きな穴に収まっ

ています。鼻は半分以上軟骨です。唇は描く対称としては魅力的なモチーフですが、重大

なのは顎です。人体画でも同じですが、骨格が描けていなければなりません。顔ならば、

頭蓋骨です。ゴッホの顔の絵はしっかり頭蓋骨が描けています。

ゴッホだけではなく、クラシックの画家は誰もみな頭蓋骨を描いています。もちろん東洋

の仏像や仏画、水墨画の人物道釈画もしっかり描いてあります。やはり古典絵画は無限に

素晴らしいのです。

上の4点をもう一度見直してください。レンブラントとボッティチェリは特にはっきりわ

かりますが、どの作品も見事に頭蓋骨が描けています。どの肖像の顎も頑丈ですね。

 

図版は上・左から順次、

*フュギエイアの頭部(「ギリシャ婦人」)紀元前350年ごろ パロス大理石 高さ28.5cm

 健康を擬人化した婦人像 

*綴織当麻曼荼羅図(32分の1以下の右上部分)奈良時代 元の大きさ394.8×396.8cm

*ボッティチェリ「春」(64分の1ほどの右部分)1477年頃 板 テンペラ 元の絵203×314cm

*レンブラント「駝鳥の羽の扇を持つ婦人の肖像」(8分の1ほどの顔の部分)1660年代 

 キャンバス 油彩 元の絵99.5×83cm

   

他のテキスト

第1回絵画教室「りんごを描く」(03年7月16日)/第2回絵画教室「手を描く」(03年8月13日)

第4回絵画教室「花を描く」(03年9月17日)/第5回絵画教室「油絵で描く」(03年10月1日)

第6回絵画教室「バラを描く」(03年10月15日)/第7回絵画教室「風景を描く」(03年11月5日)

第8回絵画教室「静物を描く」(03年11月19日)

絵画教室のご案内のページ


最初のページ
Head Page