唇 寒(しんかん)集13 <03/2/16〜4/20>

 

03年2月16日

ここのところ、よく働く。もっと前から働いていれば、今のような苦しみと不安はなかっ

た。まこと、ばかばかしい。わたしは中学生の学習塾をやっているのだが、この仕事を社

会悪だと考えたことはない。世間には塾を嫌う人は多い。「卑しい職業」というような態

度を取る人もいる。塾をやっていると聞いただけで、急に離れていった人も少なくない。

以前、『のたり松太郎』という相撲コミックのなかで、次のような名台詞が引用されてい

た。確かリンカーンの言葉だったと思う。「卑しい職業なんかはない。卑しい人間がいる

だけだ」。

もちろん、わたしが塾をやっていると知ってわたしから離れた人を卑しいと言っているの

ではない。ただ、リンカーンの言葉を知らないのかなとは思った。ふうつ大人はコミック

なんて見ないから知らなくて当然。

驚くのは、中学の先生で、自分も塾へ行き、学生時代は塾の講師もしたのに、学校の先生

になってから突然塾を激しく攻撃する人がいること。本当にろくでもない塾も多いから、

きっとそういう塾ばかり渡り歩いたのかもしれない。

塾は別に立派な職業ではないが、卑しい仕事でもない。泥棒や人殺しを教えているわけで

はない。英語や数学を教えているのだ。堂々たるものである。特にわたしの塾はいい塾だ

と思う。わたしの塾が食うや食わずであるというのは、この地区の多くの中学生の不幸で

もある。私のところへ来たほうが幸せだからだ。もっと自信を持って宣伝しなければなら

ないが、もう宣伝費もない。

わたしは子供のころから年下の子供たちを引き連れて森へ行って蝉を取ってあげたりした

ものだ。父がそういう姿を見て「どうせ学校の先生にでもなるんだろう」などと言っていた。

わたしは職員室の臭いが嫌いだから学校の先生にはなりたくなかった。田舎で一人で塾を

やりたいと思っていた。今住んでいるこの成瀬は、塾の激戦区でとても田舎とは言えない

が、田舎的な面もたくさん残っている。ある意味わたしは自分の好きな道を歩んでいると

言える。しかも、昼間は暇だから絵もたくさん描ける。たいへん恵まれた人生なのかも知

れない。

父は絵描きは安定しちゃダメだとよく言っていた。どんなに小さくても自分で仕事をしろ、

勤めたら人間が小さくなって絵も小さくなるとも言っていた。わたしはその言葉も守って

いる。おかげで、ひどい火の車。自分の子供にはこんな思いはさせたくない。自分の絵が

大きいかどうかも疑問だし。

ついこの前まで、絵描きなら絵で暮らしを立てたいとも考えていたが、これはいつも言う

ようにまず無理。純文学、クラシック音楽、純絵画。この手のものでは食えない。昨日も

100円ショップでCDを買った。スメタナの「わが祖国」が入っていたからだ。全曲入

りのを持っていたのだが、引越しでどこかにやってしまった。昨日のCDはもちろん100

円。代表的なクラシックが8曲入って64分の演奏。けっこう聴ける。わたしなんかには

十分楽しい。これではクラシック演奏家は飯が食えない。

なにも絵で飯を食うことはないのだ。絵が売れるということはまずない。と言うより、絵

は売れない。塾の宣伝費も尽きて、今年も敗北(らしい)。腹をくくるだけならいいが首

をくくらなきゃならないとなるとちょっと困る。

ま、なにはともあれ、まずは泳いでくる。バイバイ。

……たっぷり泳がさせていただきました。本日の更新は「唇寒集12」です。

 

03年2月23日

最近まったく「絵の話」を作らなくなった。別に意欲がなくなったわけではない。いろい

ろ考えてはいる。ま、この4月頃までは忙しいから無理かもしれない。

今日も更新をしなくてはならないが、すでにたいへん疲れている。今日も大作は到底無理。

第一、「絵の話」どころではない。3月の町田展、4月の大分展がすぐそこまで来ている。

案内状の絵を決めて、写真を撮り、大至急印刷屋さんに頼まなければならない。明日中に

送らないとエライことになる。なにしろ、町田展は私の個展のほかに「なるび展」もあるのだ

から責任重大だ。

昨日のクロッキー会ではわたしが出展希望者の取りまとめをぐずぐずしているものだから、

仲間のS氏が手際よく片付けてくれた。まことに頭が下がる。やっぱり、会社でテキパキ

やっていた人は違う。わたしみたいにもたもた生きていると何も出来ない。せめて案内状

でご迷惑をかけないようにがんばろう。

今朝は等迦会のトップの方から電話をいただき、受賞のコメントを書けとのこと。150

文字以内の指定だから長い文ではない。ここに写しておく。

「おのれの描きたいところを瞬時に画面に焼きつける、これがわたしのやりたいことです。

しかし、筆も絵の具も暴れ馬のように当方の思いなどおかまいなしに突っ走ります。今回

等迦会賞をいただいた絵はどうにか手綱がさばけたのでしょうか」

以上たいへん短いコメント。速描きはどうしても絵が薄くなり軽くなる。速く描いてしか

もどっしり重たい頑丈な画面を作り出すのは至難の業。これをクリアした数少ない絵描き

がゴッホである。ゴッホはどちらかというと風景画家だが、わたしは人物画も含め、何で

も描きたい。この画法こそ絵画に生命を吹き込む秘法と信じている。果たして、寿命のう

ちにわが意は達せられるだろうか? まず、到底無理。

 

03年3月2日

横浜のギャラリー・ボールドで「春美展」が始まった(10日まで)。デパートで活躍されて

いる人気作家に混じって、わたしみたいな無頼の絵描きが加わっているのがおかしい。画

廊のオーナーの清水さんのお情けである。

ところで、いよいよわたしの作品集が出来る。「画集」と言いたいが、そこまで物凄くな

いからちょっと遠慮する。今月18日からの町田展(版画美術館)には間に合うはず。

今度の作品集は、昔(今もか?)新宿の地下なんかで自分の詩集を売っている人がいたが、

あの詩集のイメージか? 詩集はモノクロの簡易印刷で作れるから30年も昔から自分だ

けの詩集が存在しても不思議はない。実はわたしも10年ぐらい前にモノクロの作品集を

作ったことがある。簡易印刷を使って、企画編集から印刷製本まですべて自分でやった。

毎年出している小冊子「絵の話」もそのモノクロ作品集の延長かもしれない。しかし、やっ

ぱり絵はモノクロでは納得できない。どうしてもフルカラーで作りたい。

パソコンのデジカメやスキャナ、プリンタなどを駆使してちょっとした絵画作品集は出来

ないものか、と数年前から狙っていた。ところが、パソコンといっても大したことはでき

なかった。プロの印刷業者が作る画集には到底及ばない。画像の密度が全然違うし、当

然画質も、1冊当たりの製造単価も問題にならない。プロの画集は最低でも1000冊作

らなければならない。これなら1冊数千円で販売できる。しかし、わたしにそんな資金が

あるわけない。

ご承知のように去年の夏、わたしは今まで使っていたマックとお別れしてウインドウズに

切り替えた。まだ当分エバれるXPである。

当然プリンタも替えなければならない。いろいろ探していたら、カラリオの4000PX

というのを知った。なんと顔料方式。水に濡れると流れてしまうインクジェットではない

のだ。耐光性も数年から一気に数十年という単位に跳ね上がっていた。専用用紙には画材

用紙まである。私のために作ってくれたようなプリンタなのだ。

絵の取り込みにはスキャナを使いたいがどうしても大きい絵が難しい。フォトショップな

どで合成することも出来そうだが、100号などはとても無理。そこで、ついに昨日デジ

カメを買った。324万画素という優れもの。しかも驚くべき低価格だった。324万画

素ならA3まで印刷できるぎりぎり許容範囲。

実はこのパソコンもスキャナも分割支払い中。プリンタとデジカメは夏のボーナス一括払

い。だから、今度の作品集がうまくゆかないとエライことになる。

なにとぞみなさま、お買い上げのほどよろしくお願い申し上げます。

まだ何にも決まっていないが、試しにやっている印刷は上々。A4判のカッコいい画集が

できるはず。とにかく作家自身が絵を取り込んで色調整をするのだ。これほど確かな画集

はない。私みたいな何でも自分でやる絵描きも少ないと思う。絶対お買い得である。

予定では30枚の原色図版で4000円以下の定価にしたい。インターネットで申し込め

ばさらに2割引というようなサービスも考えている。

この作品集の素晴らしいところは、一枚一枚作るからお客さんの希望する絵を収録できる

という点。原則は最新作。生涯一度の画集というより、どんどん新しく作る生きた作品集

としたい。裸婦ばかりのシリーズとか風景や花を中心としたシリーズなども出来る。新時

代の新しい作品発表方法になって欲しい。わたしの思い描いてきた純絵画の夜明けがそこ

まで来ているのかもしれない。

あっ、それから菊地の絵などインターネットでいくらでも見られる、などとお考えの方に

申し上げるが、画像密度が全然違う高画質なので、そこんところ、お忘れなく。

まずは個展会場で実物をご覧ください。待ってます。

 

03年3月9日

数日前の朝日新聞にインターネット人口が国民の半数に達したとあった。実感できること

は、塾のページを見たという人からの問い合わせが多くなった点。この「イッキ描きギャ

ラリー」のアクセス数も平均で50ほどもある。倍増している計算だが、アクセス数が増

えてしまうページのデザインであることも確かなこと。それでもやっぱり増えているとい

う感じがする。わたしもインターネットを始めて満6年になる。だらだらとだが、何とか

毎週更新している。今年あたり、少しはいいことがあるかもしれない。ま、期待はしてい

ないが。どうもこの歳になると夢がなくなる。

ところで、「画集」ではなく「作品集」だがなかなか思うようにははかどらない。町田展

までもう1週間しかなくなった。明日は案内状を印刷しなければならないし、塾のチラシ

も作らなければならない。おそらく明日は一日潰れそう。それでも合間を見て用紙だけは

買いに行こうと思う。けっこう厚手の用紙なので図版30枚はきついかもしれない。スタ

ンダード版は20枚にしてもっと低価格になるかもしれない。デジカメ、スキャナ、プリ

ンタとすべて道具はそろっているのにわが技術は全然追いつかない。アプリケーションは

フォトショップが使いきれないので、フォトデラックスでやっている(わたしは前からフォ

トデラックス)が、なかなか思うようなものは出来ない。ちょっとしたところでつまずく、

風呂や寝床で「ああやってみよう」などと思いつき、そのつまずきを解決するのに1日掛

かってしまう。そうこうしてもう10日。実験したプリントは60枚以上。作品集の題名

も決まっていない。第一、表紙をどうするか? あと5日のうちに何とか絶対必ず作り上

げる所存です!

図版は出来るだけ大きく(しかし、大きすぎても格好が悪い)。手軽に見られるようにA4判

とする。解説とか文字は出来るだけ少なく。とりあえずは若い頃の旧作は掲載せず、最近

の展示されている絵を多くする。買ってもらった絵にいいものが多いのだが、すべて廻り

歩いてデジカメに収めるにはとても間に合わないし、何度も言うように生涯一度の「画集」

ではないのだから、これでいいのだ。「画集」は数万円もする。わたしのは4000円以内

でお売りできるいわば普及版。音楽の世界で言えばアルバムみたいなもの。

ところで、な、なんと。実はすでに2冊ご予約をいただいている。本当に励みになります。

あと1週間、とにかくがんばります。

 

03年3月16日

最近ネットオークションに凝っている。凝っていると言っても、もちろん買うわけではな

い。見るだけ。藤島武二や萬鉄五郎、富岡鉄斎などの「絵」が登場し、とても楽しい。も

ちろん物凄く安い。高くても10万円ほど。当然真贋はわからない。画面だけではまず判

定不可能。さらに、独立や春陽会、二科などの中堅物故作家の絵が出る。これも驚くほど

安い。ちゃんと修業している人の絵、という感じがする。経歴も芸大出が多い。ああいう

絵はしかるべきところへ持ってゆけばある程度の値がつくと思うのだが、どうなのだろう

か? まったくわからない。ただただ見て楽しんで驚いているだけ。3日に1度くらい見

ると絵ががらりと変わっている。

けっこう高いのはイラストのような妖艶な裸婦像。クラシックの香りが全然ない絵。写真

みたいだが、絵だからどこか気持ちが悪い。わたしのようなスケベジジイが描いているの

かと思うとぞっとするほど不気味である。わたしも自分を聖人君子とは言わないが、あの

手の絵にはいやらしさしかない。T画伯の少女の裸婦像も大嫌いだが、格段のいやらしさ。

その絵の値が高いから腹が立つ。わたしに言わせればあんなものは絵ではない。

わたしもいやらしい気持ちで裸婦を描いている。否定はしません。しかし、われわれはギ

リシャやルネサンスの造形を追っているつもりだ。遥かに届かないが、そっちを向いて描

いている。ルーベンスやレンブラント、アングルやドガやロダンの求めたものを探ってい

る。憧れている。T画伯の絵もそうだが、ネットのイラストにはそういう造形への憧憬は

微塵もない。数年前わたしの個展会場で「T画伯の裸婦もいいねぇ」と言っていたお客さ

んがいたが、わたしの絵を見てT画伯を思い出したのならわたしが悪い。反省しなければ

ならない。もちろんわたしはそのお客さんを張り倒したりしなかったのでご安心ください 。

私に言うなら中村彝ぐらいを出せよ。

「作品集」は画像はだいたい出来た。印刷はまだ。見本は2冊ぐらい出来る予定。タイト

ルを入れたり小文を挟んだりするとなれば、全然出来ていない。

それから、5月のゴールデンウイーク明けぐらいからカルチャーサロン的な絵画クラブの

講師をやることになりそう。「なるび会」とは違い、ちゃんと教え、絵に手も入れるかも

しれない。オーナーから最後に手を入れたほうがよいとの指示。まだはっきりしないが、

会費などの簡単なパンフレットを個展会場に置く予定。ご自分の絵が破壊されたい方来て

下さい。私の構想は模写などを大いにやってクラシック絵画がいかに素晴らしいものかを

知っていただきたいと考えている。たとえば、各自リンゴの写生をしてから、セザンヌな

りクールベなりのリンゴを模写する。そうすると、いかにセザンヌやクールベが創意工夫

を凝らしているかがよくわかるというもの。ぺらぺらしゃべりながら絵を見歩いたってわ

かりはしない。絵は模写して初めて真価がわかる! これが私の持論です。

 

03年3月23日

今日、町田市立国際版画美術館の個展となるび展が終わった。

ご高覧くださった方々、本当にありがとうございました。

作品集もとうとう出来上がらず、中途の試作品だけで予約くださった方もいました。本当

にありがとうございました。必ずご満足いただける製本でお届けいたします!

ところで、とにかく展覧会は疲れる。人当たりというか、滅多に人としゃべらないので、

一度に多くの人としゃべるとなんか精神がずたずたに切り裂かれてしまうように感じる。

みなさん優しい方々なので、私の一人相撲だということはよくわかっているのだが、とに

かく参ってしまう。

搬出の後、泳ぎに行った。水泳は酒を飲むのと同じような効果がある。精神的なストレス

がどんどん取れてゆく感じ。身体も適度に疲れてまことに具合がいい。

話は全然変わるが、35年以上続いた将棋番組が終わる。東京12チャンネルの早指し選

手権。私は初めからほとんど欠かさず見続けた。日曜日の朝5時からの番組だから録画し

て毎日少しずつ見る。ビデオが始まると10分もしないうちに寝てしまう。昼寝用の睡眠

薬としては最上の番組だった。だからいくら見続けても将棋は強くならない。

さらにもう一つ、大相撲ダイジェストも終わるらしい。こっちも子供のころから見ていた

番組。相撲も最近は大相撲ではなく、大怪我相撲になってしまい休場だらけ。横綱・大関

など交代で出場している始末。あれでは人気も翳る。若貴も引退してしまい、両横綱は外

国人。人気を保つのは無理かもしれない。ま、私個人は相撲の横綱が外国人でもそれほど

気にはならない。強い力士が横綱になる。それがたまたま外国人だっただけのこと。それ

にしても、将棋、相撲、落語など日本古来のいろいろな文化がテレビからどんどん消えて

ゆくのは寂しい。NHKだけががんばって放送している。あれは永遠に続きそう。

前回、ホームページのアクセス数がたいへん伸びていると書いた。塾の卒業生とか今来て

いる中学生、そのお母さんなど本当に多くの人が訪れてくださっているようだ。まことに

ありがたい。ありがたいが、裸婦の絵を載せ、言いたいことを言っているページ。ちょっ

とまずいようにも感じる。まことにお恥ずかしい。お恥ずかしいが、ページの姿勢は変え

るつもりはない! 今までどおり言いたいことを言わせていただきます。表紙に裸婦も使

う。人に見せられる絵なんて滅多に出来ない。裸婦以外などと限定されたら出す絵がなく

なる。図柄はきっかけである。作画意図はあくまでも造形にある。とは言っても、あまり

にお行儀の悪いポーズの裸婦は避けているつもりだ。ご勘弁ください。とにかく、ページ

の訪問者の顔は忘れて、ただただ言いたいことを書き、見られそうな絵を載せます。図柄

のご指定はご容赦ください。

 

03年3月30日

町田の個展は終わった。4月1日からは大分の個展が始まる(12日まで)。インターネッ

トでおなじみの美慶さんが企画してくれた。画廊を移転したので?落としが私の個展になっ

てしまった。さらに5月8日からは京橋展(金井画廊・おそらく17日頃まで)。

つくし野のサロン(絵画教室)も昨日建物が完成した。強化アクリルを多用した明るい部

屋。温水の床暖房も入っている。あんな美しい場所で油絵を描いていいものか? オーナ ー

の望月さんは是非油絵をやりたいとのご希望だが、奥さんは多少いぶかる。私もかなり不

安。いろいろな点でうまくゆくのかどうか、まだまだ未知数だ。しかし望月さんは第一線

で活躍されたアイデアマンだから私など思いも寄らない秘策をきっとお持ちに違いない。

今回の町田展でお配りした小冊子「絵の話」は去年の金井展の前に作ったもの(大分展の

分も02年版)。また03年版を作らなければならない。もっとも、今年のは「絵の話」

ではなく「唇寒集」になってしまいそう。02年版を読み直した。「唇寒」は毎週日曜日

に更新しているので、やっぱりどうしても休日気分で書いてしまう。通読すると、筆者は

1年中のんびり休んでいる奴か? となぜか腹立たしくなってくる。もちろん筆者は私自

身だが、時が経てば「私」も他人。「少しは働けよ」と言いたくなる。ま、そう言うが、

実際にはけっこう働いている。何しろ日曜日に更新しているから休んでばかりいるように

感じられるだけなのだ。

町田展には間に合わなかった「作品集」も大分展には是非間に合わせたい。「はしがき」

と「おわりに」と解題などを作り、製本をしっかりやらねばならない。なにしろ今は春期

講習の真っ最中だから、けっこう難しい。できるだろうか? いつもこういうライフスタ

イル。ギリギリまでやらない男。本当にそろそろこの性分から脱却したい。

 

03年4月6日

町田展、春期講習、大分展と続いている。大分展は10日まで。先週12日までとこの欄

に書いてしまった。間違えです。この2日から4日まで大分にいた。大分は遠いが、飛行

機に乗っている時間は長くはない。正味1時間ちょっと。家から羽田までが遠くて、大分

空港から大分市内までがこれまた遠い。大分展は、インターネットでおなじみのアートギャ

ラリー美慶さんの企画。3日は小野社長に石仏見物に連れて行ってもらった。絵の具箱も

持ってきた。石仏といっても大仏である。道端の小さな地蔵尊ではない。それが山肌に何

体も彫ってある。臼杵の摩崖仏と言えば、知る人ぞ知る平安末期から鎌倉期の立派な仏像

である。やっぱり仏像はいい。これだけの腕を持つ仏師がこんな山奥に何年も篭ってただ

ひたすら仏像を彫ったのだ。今から800年以上昔のこと。テレビもなければパチンコも

ない。インターネットもない。一杯飲みたくても山奥だから飲み屋もない。友達もいない。

話す相手もいなかったろう。もうそう考えただけで涙が出てくる。どの仏様も立派なお顔

である。絵の具箱なんか持ってきて、この尊顔をヘタな絵にしようというのか? なんと

図々しい! まわりの風景を描かせていただいた(作品は画廊に展示中)。

私は今は春休み。家内は実家で介護。子供はアルバイトや部活で留守。独りでテレビ三昧

だ。テレビや新聞ばかり見ている。少しはじっと坐禅でもして昔の仏師でも偲べばいいも

のを。情けない。第一春休みとはいっても、やることは一杯ある。複製画の作品集も作り

たいし、ロールを切ってキャンバスも張りたい、地塗りもしたい。5月の初めには京橋の

金井展が始まるのだ。

朝起きると、すぐプールのことを考える。30分泳ぐだけなのに、プールの時間に標準を

合わせてご飯なども食べる。52歳のオヤジとは思えない大馬鹿。パソコンをつければす

ぐ将棋。負けてばかり。困ったものだ。

何が複製画の絵画革命だ! こんなぐーたらオヤジに出来るわけがない!!

 

03年4月13日

2日がかりで「作品集」のパンフレットを作った。やっと価格も決まった。町田の美術館

でご予約いただいた方は町田仕様(20枚で2300円の2割引)でお作りする(新仕様

をお望みならもちろんOK)。

パンフレットでは、フルカラー42枚で3800円。最初の予定が「30枚の原色図版で

4000円以下」だったから、このほうが割安。紙質も落ちないし、もちろん印刷術は向

上の一途をたどっている。

この「作品集」作戦がうまくゆけば、新作品集を毎月でも出したい。そのためには新作油

絵を300枚は描かなければならない。毎月油絵42枚の作品集を出すとなるとやっぱり

200枚では載せる絵が足りないだろう。描く絵描く絵が全部うまくゆくわけではない。

だいたい2〜3割程度がいいところ。これはきついので墨で描いたデッサンや旧作も交え

た作品集となるかも。ま、毎月は夢だ。とにかく最初の1冊をちゃんと作らなければ! 

第1弾が200冊はけたら第2弾を考える。1000冊なんてことになったら印刷システ

ムを根本的に考え直さなければならない。2000冊となれば出版社も触手を動かすはず。

もうそうなったらアイドル状態。おそらく実現するでしょう!

ま、そんな夢でも見ていないことには、この不景気生きていられません。

印刷物が売れたら原画が売れなくなるとお考えの画商さんもおられるだろうが、私はむし

ろ逆だと思っている。CDが売れている歌手のコンサートは満員である。誰だって複製よ

り本物が見たい。「作品集」に収められている原画は人気が上がるはずである。

ま、それもこれも最後は絵のチカラ。一生懸命描かなければ。

この「作品集」作戦は最終的には美術館で列を作っている美術愛好家をターゲットにして

いる。「絵は買わないが絵が好き」というけしからん人々。しかし、こういう人は物凄く

多い。また、けっこう厳しい眼力の持ち主。そうなってくると、われわれの商売敵はルノ

アールとかゴッホということになる。「相手にとって不足はない」とはこのこと。理想的

な展開である。だって、気持ちの悪い売り絵や目先の受賞や推挙に汲々としている画壇美

術と対決するのはゴメンだから。やっぱりこっちも尊敬できる画人とやりあいたい。それ

にしても、古典絵画の発色、デッサン力、画面の強さ、思い切りなどすべてが素晴らしい。

しかも真面目で命がけ。大きな感動があり、並外れた修練もある。普通考えれば戦えるよ

うな相手ではない。しかし、こっちもこの歳まで絵に係わった以上、こんなところで引く

わけにはいかない。冗談じゃない。ゴッホも一生なら俺も一生なのだ。あんなオランダ野

郎に負けてたまるか、とちょっと社会的に問題ある言い回しになってきたのでそろそろプ ー

ルに行く。ま、水泳ならゴッホにもルノアールにも負けないはずだが、彼らの泳力がどれ

ほどのものかは画集の年賦には出ていないからわからない。あっさり追い抜かされたりし

て。それじゃあ将棋で勝負か? 近頃勝ち方も忘れた。中学数学は専門だが、図形の難

問はおいそれとは解けない。中学数学を馬鹿にしてはいけない。これも絶対勝てるとは言

い切れない。

 

03年4月20日

将棋の米長邦雄が引退する。最近の勝率は3割ぐらいだから致し方ないかもしれないが、

3ヶ月ぐらい前のテレビ将棋ではけっこう切れ味があった。

また、銀座のくまざわ書店が5月初めに閉店するという。4月中に絵を取りに行かねばな

らない。思えば、長い間絵を展示させていただいたものだ。6〜7年になるのではないか?

本当にありがとうございました。

いっぽう、作品集だが、早くもプリンタが壊れてしまった。というか欠陥品だった。メー

カーが回収して直す。簡単に直るという。しかし、1週間はかかる。プリンタはなくても

原稿を作っておくことは出来るが、どうもやっぱり1回1回プリントアウトして見てみな

いことには、パソコン画面上での修正では話にならない。困ったものだ。

本日の更新は『今月の絵』。久しぶりなので通常5〜6枚のところ10枚一挙にがんばっ

た。また、近いうちに作品集のページも作ろうと思う。

 

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