03.11.9更新

サロン・ド・ヴェール 絵画教室

第7回  「風景を描く」

 

絵を描く前に

11月1日。久しぶりに上野に行きました。レンブラント展が主目的で、他に東京国

立博物館にも行きました。よい絵や焼物、仏像などをたくさん見ました。やっぱりい

いものを見ないといけません。新しがってばかりいるのはいただけません。自然を見

ることも大切ですが、古典の美術品をいつも見ていないと目が肥やされません。現代

美術の最大の欠陥は古典が足りないことです。みなさん、いいものをたくさん見てく

ださい。

 

初期の風景画

油絵の風景画の歴史は浅く、点景人物のいない純粋な風景画は19世紀になってから

だと言われます。

人物の背景としてなら風景画もルネサンスの頃からたくさん描かれました。ただ誰も

人のいない風景だけの絵で思い出すのはアングルの絵ぐらい。

風景画家はグァルディ、カナレットなどから始まって、17世紀のクロード=ロラン

などたくさんいますが、すべて人物がいる風景です。

LAKE-YAMANAKA    LAKE-YAMANAKA

左・グアルディ(1712〜1793)「サン・ジョルジオ島」(部分)18世紀 キャンバス 油彩 72×97cm

右・ターナー(1775〜1851)「平和:海上の葬式」1841年 キャンバス 油彩 88×88cm

 

イギリスのターナーの絵には海と船だけの絵もあります。しかし、船は人が作った人

工物ですから、やっぱり自然の風景とは言いがたい。

 

やっぱりモネ

本当に自然をそのまま描いた画家はやっぱりモネが初めではないでしょうか? また

モネです。やっぱりどうもモネは偉大な油彩画家だったようです。もっとも、私はモネ

の純粋風景はいいとは思っていません。純粋風景は有名な大聖堂や積み藁の連作で

はなく、ノルウェー旅行で描いた風景などです。大聖堂の連作ぐらいからモネの絵はど

うも理屈っぽくなって学者のような姿勢が強くなります。絵描きとしての本来の感動が

薄らいでしまいます。何度も言うように75歳過ぎから描いたバラやアガパンサスには

素晴らしい感動があります。

モネ以降で人の気配のない風景を描いたのはスイスのホドラー。山だけの絵を残しま

した。モネやホドラーの純風景画は後の抽象絵画に強い影響を与えたと思われます。

点景人物がいたり、人の気配のある風景画を風景画と大雑把に考えるなら風景画の祖

はやはりクロード=ロランでしょうか? 少なくともデッサンでなら純粋風景をたく

さん残しています。

東洋にも古くから風景画がたくさんあります。東洋の風景画のことを述べていては切

りがないので、今回は止めてまたの機会にお話します。

 

横棒が要

風景を描くとなると、まあ、だいたい横に一本棒を引きます。地面と空の境目です。

これで半分はできたようなものです。

あまりにも簡単で申し訳ないのですが、この横棒が物凄く重大なのです。

風景画の構造はこの一本の横棒でできています。

つまり舞台と背景を分ける線です。

LAKE-YAMANAKA LAKE-YAMANAKA LAKE-YAMANAKA

左・ブーダン(1824〜1898)「トルーヴィルの浜の水浴者たち」1869年 板 油彩 31×48cm

右・モネ(1840〜1926)「アルジャントゥイユのレガッタ」1872年 キャンバス 油彩 48×75cm

下・マルケ(1875〜1947)「ラ・フレットの春、モンティニィ」1940年 キャンバス 油彩 65×81cm

*水(地)平線の位置を確認してください。

 

モネの絵の先生はブーダンという海浜風景画の名手です。ブーダンの水平線は画面下

3分の1以下です。モネは半分ぐらいのところ。モネの35年ほど後輩にあたるフォーヴ

の風景画家マルケは画面上3分の1以上のところになります。これはおそらく日本の北

斎、広重の影響だろうと推測できます。

LAKE-YAMANAKA LAKE-YAMANAKA

左・葛飾北斎(1760〜1849)「冨嶽三十六景 隅田川関谷の里」1831年頃 浮世絵木版画 24.8×36.7cm

右・安藤広重(1797〜1858)「東海道五十三次之内:金谷」1834年頃 浮世絵木版画 22.2×34.3cm

*北斎や広重にもいろいろな高さの水平線があるが、高い水平線は浮世絵絵師の発明か?

 

つまり景色を高いところから見ているのです。俯瞰図とか鳥瞰図と言います。

 

舞台の上

この舞台の上に、道や川を描きます。こういう長いものは風景の重要な決め手です。

そして、舞台の凸凹をさーっと示しておいて、最後に樹や家などを描きます。

これだけのことです。あとは適当に色をつけておけば終わり。

 

もっとも重大なこと

もっとも大切なことは感動です。その感動を受け入れる絵の構造は単純なほうがいい。

絵を作ることに腐心していては感動が消えてしまうからです。絵を長く続けるコツは

描くことを単純に、簡単に考えることです。難しく考えたってどうせできやしません。

絵のことより、風景の美しさを味わうことです。それが絵にも表れ、絵も魅力的にな

ります。

 

 

他のテキスト

第1回絵画教室「りんごを描く」(03年7月16日)/第2回絵画教室「手を描く」(03年8月13日)

第3回絵画教室「花を描く」(03年9月3日)/第4回絵画教室「花を描く」(03年9月17日)

第5回絵画教室「油絵で描く」(03年10月1日)/第6回絵画教室「バラを描く」(03年10月15日)/

第8回絵画教室「静物を描く」(03年11月19日)

絵画教室のご案内のページ

 


最初のページ
Head Page