03.11.22更新
サロン・ド・ヴェール 絵画教室
第8回 「静物を描く」
思い浮かぶ静物画
静物画と言えば、一般にはセザンヌなのでしょうか? 私が思い浮かぶのは古いオ
ランダの静物画、そしてフランスのシャルダン。セザンヌももちろんいいし、ドイツで
見たマチスの静物も忘れられません。ピカソにもいい静物画があります。
静物画はもともと豊作をあらわすものなのでしょう、獲物や収穫物が描かれてきまし
た。当然、西洋の静物画には鳥やウサギの死骸や肉が生々しく描かれます。
その点、東洋の静物画は花や野菜、果物がほとんどで、やっぱり日本人には東洋の
絵のほうが向いていますか?
左・ヘッダ(1594頃〜1680)「静物」1634年 キャンバス 油彩 43×57cm
右・シャルダン(1699〜1779)「パイプと水差し」1737年頃 キャンバス 油彩 32.5×40.0cm
下・伝牧谿(13世紀末活躍)「柿図」南宋時代 紙本墨画 35.1×29.0cm
*ここには動物の死骸は取り上げませんでした。上の西洋画は典型的な三角構図。
静物画も横棒
静物画を描くとなると、これは風景とまったく同じです。やっぱり横棒が肝心で、バ
ックと舞台。この舞台の上にいろいろなものがあるという構造を捉えることが大切で
す。ま、風景のように上から見るように描くほうが、見る人には新鮮に映るでしょう。
次は構図。構図はとにかく三角構図。これが基本です。まず安定していて、その中に
流れがあるように作ります。静物画ではモチーフを置く最初のレイアウトが物凄く重
要だともいえます。ま、これもピラミッドに置けばいい訳ですから、そんなに悩むこ
とはありません。とにかくどんどん描かなくてはいろいろなことが学べません。
左・セザンヌ(1839〜1906)「りんごとオレンジ」1895〜1900年頃 キャンバス 油彩 74×93cm
右・ボナール(1867〜1947)「果物皿のある静物」1923年 キャンバス 油彩 39.5×51cm
*セザンヌの構図、ボナールの色彩。
静物画の作為
実は私自身は静物画はほとんど描きません。上にも述べましたように静物画は最初
の配置が命です。となると、そこにすでに作為があり、何か面白くないからです。し
かし、実際の生活の場で、散らかったテーブルの上とか、西日の入る部屋の一瞬な
どに驚くような美しい情景が見られることもあります。そういう静物画ならこれから
も大いに描いてみたいと思います。スイスの彫刻家・ジャコメッティのデッサンにそう
いうのがあります。
自分で並べた果物を自分で描く、なんてことはまずありえません。果物はやっぱり樹
に生っているのを描きたい。当然、絵画教室ででもなければ静物画などまず描きませ
んから、絵画教室で描く静物画は貴重な体験です。
左・マチス(1869〜1954)「ゼラニウムのある静物」1910年 キャンバス 油彩 94.5×116.0cm
右・ピカソ(1881〜1973)「静物(デザート)」1901年 キャンバス 油彩 50×80.5cm
*やっぱりマチスは戦後日本洋画の祖かもしれない。この頃からピカソはすでに立体派?
感動と喜び
毎回申しますように、重大なのは感動です。そして描く喜び。これがすべてです。こ
の感動と喜びの前に上手いも下手もありません。この気持ちを忘れなければ、すべて
の絵画は美しい。反対に感動もなく喜びもない、ただ上手いだけの絵は不要です(こ
ういう絵は世に充満しています)。絵は相撲と一緒。感動という筋肉と喜びという技
を持って、思い切りキャンバスにぶち当たってください。勢いが勝敗を決します。
他のテキスト
第1回絵画教室「りんごを描く」(03年7月16日)/第2回絵画教室「手を描く」(03年8月13日)
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第5回絵画教室「油絵で描く」(03年10月1日)/第6回絵画教室「バラを描く」(03年10月15日)
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